本が身近に感じられるウェブサービス“八雲文庫”が目指すモノとは
今まで八雲文庫でできることについてばかり触れてきましたので、本投稿ではサイトを公開した経緯や解決しようとしている課題について自分自身の整理も兼ねて纏めていきたいと思います。管理人がこれから目指していく目標に少しでも共感やご賛同頂ける点があれば是非サイトのご利用をご検討ください。
何故作ろうと思ったのか
まずは以前にも書きましたが技術者としてHTMLで紙の本っぽさをどこまで再現できるか挑戦してみたかった、というのがあります。エンジニアとしてある程度の経験も積みそろそろ自分だけのプロダクトを作りたい気持ちが大きくなっていたので、何か形として見せられるモノを作ってみようというのが最初の動機です。そのため広く使われるサービスを作ろうという想いはどちらかというと希薄でした(ので今とても苦労しています)。
そんな中で何か良い題材はないかと考えていた時に、スマートフォンゲームがとてつもない勢いで普及し始め周りで本を読む人が減ったことに気がつき、イチ読書好きとして危機感を覚えたことがサービス構築の1つのきっかけとなりました。あくまで主観なのですが、スマートフォンが普及する前と後では電車の中で本を読む人は激減したように思います。スマートフォンゲームと同じくらい手軽に書籍が読めればもっと本を読んでくれるだろうか、投稿サイトのような感覚で書籍を読んだり作ったりできれば面白い作品が読み放題で自分も嬉しいな、という発想からそれを実現できるサービス構築を目指しました。
また、当時は電子書籍が少しずつ広まり世間が賑わっていた頃でしたが不満の声も散見しており、電子書籍を独自にブラウザ上にレンダリング*1しようと考えていた自分の手法なら色々と解決できるのでは?とニーズの予感もあり実際の開発に至りました。
【当時の不満の声】
- 閲覧に専用の端末が必要
- 複数書籍を同時に開けない
- カラー表示できない
- 動作が重い(これは当サイトも微妙...)
- 背表紙で並べられない
- 内表紙(袖表紙)がない
- フォーマットが統一されていない etc.
目指したのは今までにない電子書籍プラットフォーム
八雲文庫は「フォーマット」ではなく「プラットフォーム」です。テキストを貼り付けるだけでブラウザで読める電子書籍として作品を公開できる、というのは現在の機能なのですが、今後の構想として様々なフォーマット間の橋渡しをする「フォーマット変換ツール」としての役割を果たせればと考えています。ここでいう「フォーマット」とは電子書籍フォーマットだけではなく、他サイトで定められている記法やマークダウン、さらには画像やPDFも含みます。様々な解析を用いて当サイトが内部的にもつ中間フォーマットに変換することでフォーマット間の相互変換を可能にしたいと考えています。また、図には描いていませんがフォーマット変換の最終目標は現実の「紙の本」への変換であると思っているので当サイトでは固定レイアウトにこだわっています。八雲文庫のビューワーはフォーマット変換をかける前の広い意味での「プレビューワー」であり、作品の「評価版(プレビュー版)」の公開場所としてお使い頂ければと思っています。
目的ではなく手段としての電子書籍
「最終目標が紙の本」と聞くと時代の流れと逆行しているように思われるかもしれません。電子書籍は読むにしても作るにしてもその手軽さが大きなメリットでありその利便性を否定するつもりは全くありません。が、実は管理人は電子書籍端末は所持しておらず、本はもっぱら紙で読む派なのです。唯一持っている電子書籍は技術書を買ったらついてきたPDFくらいです。人並みに読書は好きですが愛書家というほど蒐集している訳でもないので今のところ本棚から本は溢れていませんし、私は集中力がそれほどある方ではないので1つの媒体で色んな本が読めてしまうと1冊に集中できなさそうなので紙の本で読んでいます。ただ、紙にしろ電子にしろ、書籍の閲覧・作成のハードルを少しでも下げることが世にいう「活字離れ」に歯止めをかけることに繋がるのではないかと個人的に考えています。また、紙の本を電子の本にしようとする技術進化流れの中で、電子の本を紙にしたいと思う技術者が1人くらいいても良いのではと思っています。
無意識に広がる本との距離を繋ぎ留めたい
私は出版業界の人間ではないので本に関する知見もほとんどなく偉そうなことは何も言えません。ですがやはり小さな頃から親しんでいる本に対しては特別な思い入れがあり、現状の出版不況については思うところがあります。溢れかえる膨大な情報と技術の進化、メディア環境の変遷に伴って私たちの可処分時間は細分化され、私自身もついスマートフォンに時間を使いがちになってしまっています。それでもたまに本を買って読み、物語を楽しんだり知識を吸収することで充実感を得ており人間的な成長にも繋がっていると日々感じています。
サービスの構築を通して文字組を学び、本とは何かについて真剣に向き合ったことでその素晴らしさを再認識し、気がつくと離れつつあった自分と本との距離も再び縮まったような気がします。サイトを訪問してくださった方にも本が本来もつ豊かな表現力を少しでも体感して頂いて「やっぱり本って良いよね」という気持ちを伝えられればと思い、現在も細々と運営を続けています。